「トミックス テクニカルブック」について

以前から1980年代あたりのトミックスの刊行物について触れていますが、となると、やっぱりこの冊子には触れないわけにはいかないです。
引きで見てもかなりボロボロですが、これもまたそれだけ読み込んだ証でもあります。
(松坂屋で買った跡がありますね)

(以降、画像は特に注記のない限り「トミックス テクニカルブック」より引用)

1984年10月に出された「テクニカルブック」は、鉄道模型の業界が車両のみならず、さまざまな周辺機器を充実させつつあった当時の勢いがそのまま反映されています。魅力あふれるレイアウトの写真で読者の心を掴むと同時に、制作技法の解説を通じて「自分にもできるかも」と思わせてくれるような、実に巧みな構成でした。
もちろんこれより前から、鉄道模型を総合的に紹介・解説するムック的なものは方々で存在していたのですが、以前から触れているように、「テクニカルブック」にはこの時代独特のなんとも言えない空気感が宿っています。今からすれば大時代的で、人によっては鼻につく(笑)記述もあるものとは思いますが、一度魅入られてしまうと、なかなか抜け出せない世界観でもありました。そして当時の自分は、まんまとその中に絡め取られてしまったとも言えます。

表紙の裏の記述からして、これですからね。
当時は「DIY」という言葉も、ひょっとしたら今ほど一般的ではなかったかもしれませんが・・少なくとも私は、ここで初めてこの用語を知りました。
その次の目次にある写真も、なんでポケットに線路が入っているのか?と、当時ですら不審に思っていたのですが・・なんというか、こういう細部にもある種の「思想」が宿っている感じがしています。

次のページの「URBAN LIFE」の写真から、一枚一枚を食い入るように見ていました。
あまりにも入れ込みすぎて、解説文に傍線を入れたりしていた始末です。
なので汚すぎて、ここにはとても引用できないのですが・・このあたりのジオラマの風景は、大半が「トミックス ディオラマワールド」にも収録されてますので、いずれまたそちらを取り上げることでカバーするとして。
それ以外であれば、たとえばこちらの写真でしょうか。

橋上駅舎を改造して陸橋を付けた例ですが、こうして逆転させることで奥行きが生まれるんだな、というのを子供ながらに勉強した記憶があります。実際にやったわけではないんですけど。


また、これもとんでもないジオラマです。初めて見た時は衝撃でした。
よく考えると、鉄道でこんなカーブの半径は実際には無いわけなんですけど・・道路との対比が妙に奥行きを感じさせたものです。ライティングと背景の妙もあるのかもしれません。

というか、この写真の解説に「背版もスプレーガンを使って、山の遠景や雲をリアルに描き上げました」とあるのですが、常人では絶対無理です。

いや、「達人の絶景を堪能する」のが目的なら別に良いのですが・・この冊子の立ち位置として、「ほんの少し背伸びすればあなたにもできますよ」というテイストが根底に流れているはずなので。にも関わらず、平然とハードルを超えてくるあたりの姿勢が、なかなかに趣深いところでもあります。

この直後、トミックス製品ならこんな世界が実現できるよ、と言わんばかりの紹介が続いていきます。
「もちろん、この本にすべてをご紹介したように、難しいルールもテクニックも不要(冊子のp9より)」ともあるのですが・・果たしてどうでしょうね。


例によって「鉄道模型は大人の趣味です」的な写真も入ります。
ウイスキーとともに、これみよがしに置いてあるタバコと灰皿が時代を感じさせます。


以前取り上げた「トミックスガイドブック」にも、車両はデリケートだから熱・ほこり・湿気は避けることとあるんですが・・まあ今でも、中古の鉄道模型ではタバコ臭が注記されているものもありますけどね。

このあと、基本的な知識や製品の紹介を経て、レイアウトの制作技法が4題ほど示されます。できるかは別にして、このバラエティの多さは気合が入っています。
最初のグリーンマットは本当に簡単な例。次のは「基本のテクニックを網羅」としつつ、そこそこ難易度は高いです。池まで作っちゃってますからね。

その次のコンビネーションレイアウトも変化に富んで面白いのですが、これも全て作ると結構なボリュームになります。
そして集大成が・・こちら。

以前触れたトミックスガイドブックにもある「鉄道模型レイアウトのひとつの到達点」ですね。

制作技法に関しては、ここで細かくツッコミを入れるものでは無いのですが、ストラクチャーが気になる向きとしては、最後の方のこの写真ですかね。

当時はまだ、対向式ホームがこのローカルなものしかありませんでした。従って都会の風景の中にもこの木造駅舎を入れざるを得なかったのですが、これはこれで味があります。再開発がままならない状況で街が発展してしまったというか。
本来、総合ビルのデパートは駅に隣接して建てるべきにも思いますが、高架線の向こう側に建てられているのは、駅前の再開発が遅れている間に少し離れたところが栄えてしまったのだろうか・・など、当時から妄想して楽しんでいたものです。(単にレイアウトの見栄えの問題とは思いつつ。笑)

最後に。裏表紙の裏に、こんなカットがごく小さく入っているのですが。
これもまた味があります。

というか、これだけ手間暇かかっているよということを、暗に示しているということでもあるのですが。

これらの情景群はトミックスが完全に内製で作ったわけではなく、ある会社が中に入っていたことを知るのは、それから随分と後のことになります。
この辺りの徒然は、またいずれ、でしょうかね。

(「トミックス ディオラマワールド」p30より)