’88年 トミックス総合カタログの記憶

鉄道模型を始めて最初に購入したカタログは、確かTOMIXの88年総合カタログでした。渋谷のロフトあたりで、親に買ってもらったような。

定価は800円。1987年10月発行。
今は多少バラついていますが、この頃は年末に向けて発行されるのが定番でした。翌年に向けての新製品のイメージや予定が掲載され、会社としてこれからここに力を入れますよ、というある種の決意を表明する場にもなっているんですよね。
ただこの1988年版では、最近見られるような特集ページもなく、アイテム数も限られていたため、全162ページとカタログとしては比較的コンパクトです。翌年以降、ページは増加し200ページを超えるようになります。
最近では4-500ページがザラですね。カタログの歴史はこちらが詳しいですが、
2008年からは総合ガイドと名前が変わっています。

当時の誌面を見ると、新製品の予定はフラノエクスプレスと小田急10000形ロマンスカーが目玉で、あとは貨車が少し。製品展開もまだまだ小規模な時代です。
ただそんなやや地味な構成の中にも、当時のトミックスが鉄道模型に対して、きちんとしたコンセプトを持って問いかけていたことが、いま読み返すと改めて伝わってきます。

特集ページもまだないのでイントロが冒頭の2ページ程度、その後にはシステムの説明、そしてビギナーが最初に購入する「ベーシックセット」の案内へと移っていくわけですが。
このイントロの文章が端的ながら、読ませるフレーズが多い。

見知らぬ土地への旅は常に新しい発見で満ちみちています。写真でしか知らなかった車両に初めて乗る興奮。目を奪われてしまいそうな車窓からの沿線風景。あるいは、その土地の人々の暮らしに対する親しみや驚き。さまざまな事柄が、旅の中で経験として綴られていきます。そんなことから鉄道への夢や憧れが育まれていくのではないでしょうか。そして、できるならば鉄道をもっと身近なものにしたいという気持が湧いてくるはずでしょう。この願いを叶えてくれるのが、鉄道模型です。

出典:’88年トミックス総合カタログ

ここからさらに、自分の想像力や創造性を広げられることの魅力が語られ、その一翼には鉄道のみならず、情景を再現することも示されます。
改めて読むと、話がどんどん広がって日本の歴史から精神性、心の豊かさなどにまで飛躍していく展開は、ちょっと壮大にすぎる向きを感じないでもないですが(笑)、少なくとも当時のトミックスが、そうした世界観をトータルで提供したいという強い意識を持って製品群を展開していたことはよく伝わってきます。

興味をそそる多くの刺激的な情報と物質的な充足を提供してくれる現代。しかし、めまぐるしくかわる時の流れは、人の心まで支配し、心のうるおいまでも奪ってしまおうとします。そんな時、ふと、季節の移ろいのような大自然の素朴な営みに憧れを感じたりすることがあるはずです。文明が進めば進むほど、それに反比例して、人の自然に対する渇望は深まっていくのかもしれません。

出典:’88年トミックス総合カタログ

当時はバブル真っ只中。経済成長の中にも物質的ではない豊かさを求めていた時代でもあり、その辺りがややもすると詩的な表現につながっていた面も否めませんかね・・。
とはいえ語られている事は時代が変われど、いまにも通じるものがあるかもしれません。比較にならないほどのアイテムやパーツが出ているけど、果たして自分はそれを楽しめているのか?という。

そんな、ある種の強めなメッセージを発していたこの頃のカタログ。
誌面の合間にもその思想が滲み出るような構成がみられ、文章の背景はよくわからずとも、部分部分が子供心ながらに印象が残っていたものです。

これなんか、ただのアクセサリー部門の紹介なんですけど、こんな遊び心のあるお洒落なカットをサラッと入れてくるあたり、センスの良さを感じます。
(バスの最小回転半径は大丈夫なのか・・という不粋なツッコミはやめましょう。笑)
遊び心といえば、鉄道模型趣味の増刊「プレイモデル」も有名とは思うのですが、少し時代が下ったところでの、より洗練された感覚もあるようにも。

このカットにも心を奪われました。当時一押しだった「高架駅」の構内改札をクローズアップして、時間帯ごとの賑わいの差を示しています。
改札周りは特に色も塗られていない製品のまま。案内板もシールを貼っただけ。そしてよくみると、人形も数種類を使い回しているだけだったりします。当時はジオコレも何もないですからね・・
にも関わらず、ここから感じられる雑踏のリアルな雰囲気。また朝の時間帯はライティングを微妙に変えて陰影をつけているのが芸が細かい。
ここには載せませんでしたが、夜は夜で照明がついている感じが出て、また良いんですよね。

結局のところ、ただのノスタルジーと言われてしまえばそれまでですが、この頃のこうしたテイストのカタログは今でも好きですし、折に触れて読み返してしまいます。
この流れは翌年以降のカタログにもしばらくみられますし、カタログ以外にも、こうした姿勢を示している冊子がありましたよね。この辺のやつとか。

おいおい、どこかで触れられればと思います。