80年代の「トミックスガイドブック」

1988年のトミックスカタログについて触れた際に思い出したのが、それよりやや前の時代に出ていた「鉄道模型がよくわかる トミックスガイドブック」です。

1986年11月発売、価格は300円。当時としてもかなり廉価だったのでは。

当時、鉄道模型の入り口として「ベーシックセット」を買ってもらう子供は、トミックスを選択した場合はかなり多かったのではないかと思います。
ただ、そのあとどうして良いかがわからない・・。そんなニーズに応えるために、メンテナンス方法から線路の拡張、建物をはじめとするアクセサリーの購入、そしてレイアウトの制作を目指すという、基本的な方向性を示してくれる本でした。
購買ターゲットを意識して、とっつきやすいコミック形式で紹介しているのが最大の特徴で、廉価なのもうなずけます。きっと、販促的な意味合いもあったのでしょう。

主人公の「良くん」は小学生ですね。冒頭から街の模型店にディスプレイされているレイアウトに釘付けです。
これ、同時期に出ていた「テクニカルブック」で最後に制作していたレイアウトと一緒なんですよね。テクニカルブックにも「すべてのテクニックを集大成」とありましたが、子どもが憧れを持つ、一つの到達点として提示されていたことがうかがえます。

(元ネタのレイアウト。出典:テクニカルブックp49-50)

けど、どうしていいか分からない良くん。そこに偶然現れた近所の「白井のお兄ちゃん」に連れられて模型店の中に入り、おやじさんに色々と話を聞いて、まずはカタログを買うことに。
その後模型店に入り浸るようになり、このおやじさんや、白井のお兄ちゃんに導かれる形で、ズブズブと鉄道模型の沼にハマっていく様が描かれます(笑)。
内容はごくオーソドックスではあるのですが、鉄道模型の基本的な扱い方や知識を要所でちりばめて構成している展開の仕方には巧みなものがあり、当時の子供の心を鷲掴みにするには十分だったのではないでしょうか。

なぜか小学校の通学途中、ばったり出会う白井のお兄ちゃん。
しかも颯爽とバイクで登場。「ボボボボ」の排気音が格好良さを引き立てます。
彼は学生なのか、働いているのかは判然としませんでしたが、当時はこういう「近所のちょっと年上のお兄ちゃん」みたいな存在が、今よりも一般的だったかもしれませんね。
このあと、日曜日に白井のお兄ちゃんが良くんの家に来てくれて、色々と拡張の可能性を示してくれるのですが、

元はただのベーシックセットだったのに。どんだけ持ってきたのか。(笑)
新幹線に信号機が登場したり、485系と思しき特急列車には照明まで仕込んで走らせるなど、もうやりたい放題です。このレールプランも「レイアウトプラン集」か何かに載っていましたね。

ちなみにこの良くんの家庭、妹がいる4人家族という設定ですが、みんな鉄道模型にものすごく協力的です。妹の子とか女の子なのにレールつなぎをルンルンでやっているうえ、それを見ていたお母さんまで「ママにもやらせて〜」と言い出してホームをつなぎ始めます。
あまつさえ、買い物の帰りに「わらぶき農家」を買ってきて、スーパーの袋から落ちてバレてしまい照れるという・・そんなことあるかいな。

ただ、当時の核家族の家庭の描写といい、鉄道模型がこの時代の文化として入るとしたら・・という、ある種の幸せなモデル的を示していたことはあるのでしょうね。
これまた、当時の写真としてもよく見られていた「フロアレイアウトを囲む家族」のイラストが、区切りの場面で挿入されているのが印象的です。このカットは必須だったんでしょうね。

個人的には、模型店で拡張の可能性について相談しているパートの最後で、白井のお兄ちゃんが建物やアクセサリーを抱えて宣伝?しているカットに、心を奪われたりしていました。
模型屋のおやじさんに、持ち方についてツッコミを入れられたりもしているのはご愛嬌として・・このくだりからも、当時のトミックスが総合的な製品展開を強く念頭に置いていたことがわかります。

そして、最後の方でレイアウト制作について改めて解説しているところで使われている写真も、なかなか印象深いです。
おやじさんの「レイアウト制作といって、とても奥が深いものなんだ」のセリフに、会社としてのメッセージが込められているようにも。

この本、よく見ると「トミックスガイドブック Vol.1」とあるのですが、Vol.2が出たという話は聞いたことがありません。(単に私が知らないだけかもしれませんが・・)

残念ながらその後、ガイドとしての”定番”になることはできませんでしたが、当時の勢いを感じさせるとともに、何とかして鉄道模型の市民権を与えていきたいという思いを、この冊子から感じないでもないです。

それにしても、このコミックを担当した方はどなたなんでしょうね。ディフォルメはありつつも、製品の魅力を最大限に生かし、かつキャラクターの造形も安定しています。
奥付けにもどこにもキャプションがなく、結局今に至るまで謎のままなのが、やや心残りです。